職種別キャリア2026-07-21監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

電気・電子系エンジニアの価値が上がる理由 — EV転換期の需要と転職戦略

この記事の要点

「電気屋なのに、なんでモーターの回転数まで気にしてるんですか」と、ある若手エンジニアに聞かれたことがあります。彼はもともと車載の制御基板を設計していた人でしたが、直近のプロジェクトでモーターの効率マップを読み込む作業をやらされていて、少し戸惑っているようでした。

結論から言うと、EV転換によって「電気・電子系エンジニア」という括り自体がもう一段細かく分かれ始めていると僕は考えています。パワーエレクトロニクス、モーター制御、車載ソフトウェアという3つの技術領域が、以前は緩やかに重なり合っていたのが、EV化によって急速に接近し、同時に専門性の要求水準も上がっている。今回はこの3領域の違いと、東海地方での需要の実態、そして機械系・エンジン系からの転換パターンについて、僕なりの見立てを整理してみます。

0. なぜ今「電気・電子系」が主役になるのか

エンジン車の時代、電気・電子系エンジニアは全体の設計プロセスの中では脇役に近い立ち位置でした。エンジン本体・駆動系という機械の主役に対して、電装品やECUの制御ソフトを載せる、いわば後乗せの役割だったと言えます。ところがEVでは、駆動の中核そのものがモーターとインバーター、そしてそれを制御するソフトウェアに置き換わりました。つまり以前は付随機能だった電気・電子系が、今は車の心臓部そのものになっている。この構造変化を、僕は「電気系の主役化」と呼んでいます。

経済産業省が公表している自動車産業関連の資料でも、電動化の進展に伴って車両1台あたりの電子部品比率が上昇していく傾向が繰り返し指摘されています。細かい数値は年度や車種によって変わるため、ここでは出典元の資料を直接確認していただくのが確実ですが、大きな方向性として「機械の比率が下がり、電気・電子・ソフトの比率が上がる」という流れは、東海地方の現場で働く方々の実感とも合致していると僕は感じています。だからこそ、この領域で働く人のキャリアの選び方が、以前よりずっと重要になっているのです。

1. EV転換で変わる電気系エンジニアの仕事 — 3つの技術領域

僕がこれまでお会いした転職検討者の方々の話を整理すると、EV車における電気・電子系の仕事は、大きく3つの技術領域に分けて考えると理解しやすいと思っています。1つ目はパワーエレクトロニクス系。インバーターやDC-DCコンバーターなど、電力の変換・制御を担うハードウェアの設計・評価が中心です。半導体(特にSiCやIGBT)の特性理解と、熱・ノイズ対策の実務経験が問われます。

2つ目はモーター制御・車両制御系。モーターの回転をどう滑らかに、どう効率よく制御するかというソフトウェアとアルゴリズムの領域です。制御工学の理論的な理解に加えて、実車での適合作業(キャリブレーション)の経験があると評価されやすい印象があります。3つ目は車載ソフトウェア・組込み系。ECUに載せる制御プログラムの開発、通信プロトコル(CANやEthernet)の実装、機能安全規格(ISO 26262)への対応などが中心になります。

この3領域は互いに独立しているわけではなく、実務では重なり合う部分が多いのですが、採用側の求人要件を見ると、今でもこの3つを別々のポジションとして切り出していることが多いです。転職を考える際にまず「自分はどの領域の経験が濃いのか」を棚卸しすることが、応募先を絞る上での最初の一歩になると僕は考えています。

2. 東海地方における需要の実態 — 比較で見る目安値

ここからは僕が現場での会話や採用ページの観察から得た独自ガイドの目安値の話になります。あくまで肌感覚の比較材料としてご覧ください。東海地方の完成車メーカー本体の求人と、部品サプライヤー(Tier1・Tier2)の求人を比べると、パワーエレクトロニクス系の募集ボリュームは部品サプライヤー側で相対的に厚みが増している印象があります。理由は単純で、インバーターやモーターユニットの開発・生産をメーカーが内製から外部サプライヤーとの協業に一部シフトさせている動きが、東海圏の複数の部品会社の採用広報から見て取れるからです。

技術領域主な採用元の傾向(目安)求められる経験の中心
パワーエレクトロニクス系部品サプライヤーで増加傾向半導体特性理解・熱/ノイズ対策
モーター制御・車両制御系完成車メーカー・大手Tier1で維持〜増加制御工学・実車適合経験
車載ソフトウェア・組込み系メーカー・サプライヤー双方で増加組込み開発・機能安全規格対応

この表は僕が独自に整理した目安であり、公的な職種別統計に基づくものではありません。数字を見る際は必ず「何を数えたものか」「どの期間・どの母集合か」を確認する癖をつけていただきたいです。たとえば「求人数が増えた」という情報だけでは、それが新規求人か欠員補充かも分かりませんし、機械系の求人と比べて相対的に増えているのか、絶対数として増えているのかでも意味が変わってきます。厚生労働省の職業安定業務統計など、比較の軸になり得る公的データもありますが、職種の細分化がここまで細かい粒度では出ていないため、現場感覚との併用が現実的だと僕は考えています。

3. 機械系・エンジン系からの転換は可能か — 3つのパターン

エンジン系技術者や機械系の生産技術者の方から「今からでも電気系に転換できますか」という相談を受けることが増えています。僕の見立てでは、転換の難易度は大きく3段階に分かれます。

パターン1は「制御工学の基礎がすでにある人」です。機械系でも自動制御やロボティクスの経験がある方は、モーター制御領域への転換が比較的スムーズです。理論的な土台が共通しているため、実務でのキャッチアップに集中できます。パターン2は「電装・電気回路の実務経験がある人」で、たとえば電装品の評価や品質保証を担っていた方は、パワーエレクトロニクス系への転換で強みを発揮しやすいです。回路図が読める、測定機器の扱いに慣れているというだけでも、ゼロから学ぶ人とは出発点が違います。

パターン3は「機械設計・生産技術一本で来た人」です。この場合、制御工学もソフトウェアもほぼ一から学ぶ必要があり、転換の難易度は最も高くなります。ただし僕がこれまで見てきた中では、こういう方でも品質保証や生産技術の観点から「電動化部品の量産立ち上げ」というポジションに入り、そこから徐々に技術内容を電気系に寄せていくという回り道のキャリアを選ぶ方もいました。正面から専門を変えるのではなく、業務の周辺から接近するというやり方です。これは決して劣った選択ではなく、実務経験を積みながら学習できるという意味では、むしろ現実的な戦略だと僕は思っています。

4. 今日からできる実務アクション — 5つのステップ

ここまで理屈を話してきましたが、実際に動くとしたら何から始めればいいのか、という点を整理します。僕がおすすめしているのは次の5つのステップです。

  1. まず自分の経験を「パワエレ・モーター制御・車載ソフト」の3領域に当てはめて棚卸しする。どの領域の経験が濃いか、薄いかを紙に書き出してみる。
  2. 薄い領域については、独学で基礎を1つだけ埋める。たとえば制御工学ならPID制御の教科書を1冊、パワエレなら半導体の基礎資料を1つ、というように範囲を絞る。
  3. 社内に電動化関連のプロジェクトがあれば、小さくても手を挙げて参加する。異動でなくても兼務や勉強会参加でも実績になり得ます。
  4. 転職を考えるなら、まず求人票を10件ほど読み比べて、自分が当てはめた3領域のどこに需要が集中しているかを自分の目で確認する。
  5. 面接では「どの領域の経験を、どう転換先の業務に活かせるか」を具体的な業務名で言語化する練習をしておく。抽象的な「頑張ります」では評価されにくいというのが僕の体感値です。

この5ステップのうち、僕が特に重要だと思っているのは4番目です。求人票の比較は転職エージェントに依頼する前でも自分でできる作業ですし、実際にどの領域が動いているかの生の情報は、募集要件の文言からかなり読み取れます。「制御開発」「適合」「回路設計」「組込み」といった言葉の出現頻度を見るだけでも、その会社が今どの領域に力を入れているかの手がかりになります。

5. よくある失敗と対処

最後に、僕がこれまで見てきた「もったいない失敗」を2つ紹介します。1つ目は、3領域を混同したまま応募してしまうケースです。「電気系だから何でもできます」というアピールは、採用側からすると専門性が見えず、逆に評価を下げてしまうことがあります。対処法は単純で、応募前に自分の経験がどの領域に最も近いかを1つに絞って言語化することです。3つとも中途半端に触れてきた人でも、最も強い1領域を軸に語ることで説得力が生まれます。

2つ目は、機械系から電気系への転換を焦って、資格や講座だけで実績を作ろうとするケースです。もちろん資格取得は悪いことではありませんが、採用側が見ているのは「実務でどう動けるか」です。資格の勉強と並行して、小さくても実務に近い経験(社内の兼務プロジェクトや、簡単な制御プログラムの自作など)を1つでも持っておくと、面接での説得力が大きく変わると僕は感じています。焦って講座を並べるより、1つの実務的な成果を丁寧に説明できる状態を目指すほうが、結果的に評価されやすいというのが僕の体感値です。

6.(結論)

EV転換によって、電気・電子系エンジニアという括りはパワーエレクトロニクス・モーター制御・車載ソフトウェアという3つの技術領域に分かれつつあり、それぞれで求人の質と需要の伸び方が違うと僕は考えています。東海地方では特に部品サプライヤー側でパワエレ系の求人が相対的に厚みを増している印象があり、機械系・エンジン系からの転換は制御工学の基礎の有無によって難易度が3段階に分かれます。まずは自分の経験を3領域に当てはめて棚卸しし、薄い領域を1つずつ埋めていく。それが最も現実的な一歩だと僕は思っています。

皆さんいかがでしたでしょうか。今回お話ししたのはあくまで僕なりの独自ガイドの目安値であり、実際の状況は会社や個人の経験によって当然変わってきます。ご自身のキャリアをどう組み立てるか迷ったときは、一度誰かに整理を手伝ってもらうのも良い方法だと思います。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 電気系エンジニアはEV転換でどのくらい求人が増えていますか?

具体的な公的統計での職種別集計は僕の知る限り存在しませんが、東海の部品サプライヤーの採用ページや転職エージェントとの会話から得た独自ガイドの目安値としては、パワーエレクトロニクスとモーター制御の求人が機械系の求人より相対的に増えている体感があります。数字は必ず「何の母集合か」を確認してから比較材料にしてください。

Q. 機械系エンジニアが電気系に転換するのは難しいですか?

難易度は3段階に分かれると考えています。制御の基礎知識がある人は比較的スムーズですが、パワーエレクトロニクスの回路設計まで踏み込むと再学習量が大きくなります。まず制御工学の基礎を独学で固めてから、社内異動や小規模プロジェクトへの参加で実務経験を積むのが現実的な順番だと僕は考えています。

Q. 車載ソフトウェアと電気・電子系エンジニアの違いは何ですか?

車載ソフトウェアは組込みプログラミングが主軸で、電気・電子系はハードウェア(回路・モーター・センサー)の設計や評価が主軸という違いがあります。EV化で両者の境界は重なる部分が増えていますが、採用側は今もこの2軸を別のポジションとして募集することが多いと僕は感じています。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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