職域地図2026-07-08 公開監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

EV転換で変わる東海自動車産業の職域地図

この記事の要点

「うちの工場、EVになったら要らなくなるって本当ですか」

この質問に、僕はいつも同じ返し方をします。「要らなくなる工程」と「変わらず要る工程」と「新しく要る工程」の3つに分けて考えましょう、と。皆さん、自分の工程がどこに当てはまるか、考えたことはありますか。

今回は、この3分類を地図として整理します。感覚ではなく、部品の数という具体的な算数から出発します。

0. 前提 — 部品点数の算数

ガソリン車の部品点数はおよそ3万点といわれます。このうちエンジン・トランスミッションなど動力系が約1万点を占めるとされ、EVではこの大部分が不要になり、代わりにモーター・バッテリー・インバーターなどが加わる、というのがよく引用される試算です(各種業界資料で言われる概数であり、統計値ではありません)。この算数が、職域地図の出発点になります。

1. 減る職域 — エンジン・トランスミッション専用工程

いちばん影響を受けるのは、エンジンブロック・シリンダーヘッド・クランクシャフトなどの鋳造・鍛造・切削加工、そしてトランスミッションのギア加工・組付けです。これらはEVでは基本的に不要になります。ただし、影響のスピードは会社によって大きく異なります。ハイブリッド車(HV)は当面エンジンを搭載し続けるため、HVを主力とする会社ではこの工程はまだ長く残ります。「なくなる」ではなく「新規投資が止まり、じわじわ規模が縮む」という理解が正確です。

2. 残る職域 — 車体・内装・足回り・電装

車がEVになっても、シート・ドア・ボディパネル・サスペンション・ブレーキ・ワイヤーハーネスは必要です。ここは動力方式に関わらず残る職域であり、実際にはEV化に伴って電装部品の比率は上がる傾向にあります。プレス・溶接・樹脂成形・電装組立といった技能は、EV転換の直接的な影響をほとんど受けません。「自動車部品=先細り」という一括りの不安は、この職域には当てはまりません。

3. 増える職域 — 電動化3点セットとその周辺

増える側の主役は、モーター・バッテリー・インバーターの3点セットです。東海圏では部品メーカー各社が電動化部品の生産・開発への投資を続けており、新工場・新ラインのニュースが相次いでいます。ここで重要なのは、増えるのは開発職だけではないということです。電池の製造は装置産業であり、大量のオペレーターと保全技能者が必要になります。また電装比率が上がるほど、PLC制御・配線・絶縁・検査といった電気系技能の価値が上がります。詳しくはバッテリー現場の記事で扱います。

4. 新設の職域 — ソフトウェア・制御・データ

もう一つ、従来の自動車業界には少なかった職域が急拡大しています。車両制御ソフトウェア、車載通信、OTA(無線ソフト更新)、車両データ解析といった、いわゆるSDV(ソフトウェア定義車両)関連の職域です。これは自動車業界の外からの人材流入も活発で、機械系のバックグラウンドを持つ人がここに接続する道も広がっています。詳しくはSDV職域の記事で扱います。

5. 自分の座標を見つける — 4象限で考える

ここまでの4分類を、自分の経験に当てはめてみてください。①いま減る職域にいるか②残る職域にいるか③増える職域に接続できそうか④新設の職域に興味があるか。多くの方は①にいながら、実は②③への接続経験を持っています。例えば「エンジン部品の品質管理」経験は、電池工程の品質保証にそのまま応用できます。「エンジン制御の評価」経験は、SDV領域のテスト・評価職にも接続できます。地図は固定ではなく、あなたの経験の翻訳次第で座標は動きます。

6. 会社を見分ける3つの視点

自分がいる、あるいは応募を検討している会社が「10年後も大丈夫側」かどうかは、求人票よりも投資の向きで見分けます。①主力製品構成(エンジン専用か、電動化対応か)②直近の新工場・新ライン投資のニュース③面接での投資計画への質問への回答の具体性。この3つを確認すれば、会社の本気度はかなり見えてきます。

7. 地域差 — 東海圏の中でも濃淡がある

東海と一括りにしていますが、実は地域によって職域の濃淡が異なります。西三河(豊田・刈谷・安城など)は完成車メーカーと大手一次サプライヤーの集積地で、電動化投資のニュースが最も多い地域です。三重・四日市圏は自動車に加えて半導体産業の集積が進んでおり、「増える職域」への横展開の選択肢が広い土地です。岐阜・静岡の一部エリアは中小サプライヤーの比率が高く、会社ごとの投資動向の差が大きいため、より個別に会社を見極める必要があります。自分の通勤圏がどのゾーンに近いかも、地図に加えて考えてください。

8. 職域を移る「速度」について

もう一つ伝えておきたいのは、職域を移る際の速度感です。減る職域から増える職域へ一気に飛び移ろうとすると、多くの場合ミスマッチが起きます。おすすめは、隣接するゾーンへの半歩移動を繰り返すことです。例えばエンジン系の品質管理者が、いきなり電動化のソフトウェア領域を目指すのではなく、まず車体・電装系の品質管理という「隣のゾーン」を経由してから、電動化領域に移る、というような段階的な移動です。急がば回れという言葉がありますが、職域移動においても、隣接ゾーンを経由したほうが結果的に早く、そして無理なく到達できることが多いです。

9. 職域地図を「毎年更新する」習慣

この地図は一度作って終わりではなく、年に一度は更新すべきものです。EV転換のスピードは業界全体で見ても年々変わっており、2年前に「増える職域」だった分野が投資一巡で落ち着くこともあれば、想定より早く「減る職域」の縮小が進むこともあります。年始やボーナス時期など、決まったタイミングで自分の職域地図を見直す習慣をつけておくと、変化への対応が後手に回りにくくなります。見直す際のチェックポイントは、①自分の工程の受注量の変化、②所属会社の投資ニュースの有無、③同業他社の求人動向、の3点で十分です。30分もあれば棚卸しできます。

10. 地図を「同僚と共有する」ことの効用

この職域地図は、一人で抱え込むよりも、信頼できる同僚と共有することでさらに価値が増します。同じ工程にいる同僚と「うちの工程はどのゾーンだと思う?」と話すだけで、自分では気づかなかった視点が得られることがあります。ただし、社内で転職を検討していることを広めることには当然リスクも伴うため、共有する相手は慎重に選んでください。信頼できる同期や、すでに転職を経験した先輩など、口の堅い相手を選ぶことをおすすめします。一人で抱え込んで判断を誤るより、適切な範囲で対話しながら判断の精度を上げるほうが、結果的に良い意思決定につながります。

11. この地図の限界も正直に伝えておく

最後に、この地図の限界についても正直にお伝えします。この分類は業界全体の傾向を整理したものであり、個別の会社・工程には必ず例外があります。「増える職域」に分類した電動化領域でも、投資が計画通りに進まない会社もあれば、「減る職域」とされるエンジン系でも、特定のニッチ市場で堅調に推移する会社もあります。この地図は、あなたが自分の状況を判断するための出発点であって、最終結論を代わりに出してくれるものではありません。最後は必ず、自分の会社・自分の工程の一次情報で確認する一手間を惜しまないでください。

12. 職域地図と診断を組み合わせて使う

この地図はあくまで業界全体の構造整理であり、あなた個人にどう当てはまるかまでは教えてくれません。自分の経験・興味・優先条件を踏まえた個別の座標を知りたい方は、本サイトの15問の適性診断と組み合わせて使うことをおすすめします。地図で業界の全体像を掴んだ上で、診断で自分の座標を確認する。この2つを合わせて使うことで、抽象的な理解から具体的な次の一手まで、一気通貫で考えられるようになります。

13. まとめの前に一言

地図は歩く人がいて初めて意味を持ちます。この職域地図を眺めるだけで終わらせず、次の一歩の判断材料として実際に使ってみてください。

(結論)地図があれば、恐怖は判断材料になる

まとめます。①減る職域=エンジン・トランスミッション専用工程。②残る職域=車体・内装・足回り・電装。③増える職域=電動化3点セットと保全・品質・電気系技能。④新設の職域=ソフトウェア・制御・データ。⑤会社は投資の向きで見分ける。

地図を持たずに不安だけを抱えていると、判断は遅れます。自分の経験をこの4分類に当てはめてみるだけで、次に打つべき手は具体的になります。

皆さんいかがでしたでしょうか。まずは自分の工程がどこに当てはまるか、書き出してみてください。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. EV転換で減る職域はどこか

減る職域はエンジン・トランスミッション専用工程です。エンジンブロックやクランクシャフトの鋳造・鍛造・切削、ギア加工・組付けなどがEVでは基本的に不要になります。ただしHVを主力とする会社ではエンジン工程が長く残るため、「なくなる」より「新規投資が止まりじわじわ縮む」という理解が正確だと記事は述べています。

Q. EVになっても残る職域は何か

車体・内装・足回り・電装は動力方式に関わらず残る職域です。シート・ドア・ボディパネル・サスペンション・ブレーキ・ワイヤーハーネスは必要で、プレス・溶接・樹脂成形・電装組立の技能はEV転換の直接的な影響をほとんど受けません。むしろEV化で電装部品の比率は上がる傾向にあると記事は指摘しています。

Q. 別の職域へはどう移ればよいか

減る職域から増える職域へ一気に飛び移るとミスマッチが起きやすいため、隣接ゾーンへの半歩移動を繰り返すことが勧められています。例えばエンジン系の品質管理者がまず車体・電装系の品質管理を経由してから電動化領域へ移るような段階的移動です。急がば回れで、隣接ゾーン経由のほうが結果的に早く無理なく到達できるとされています。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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